@n_poteto
軍を引くという星宿様に嘆願する話
さとみさん(@satomi8429)
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another side2
さとみさん
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時間軸は
青龍召喚翌日(ゆま)
another side1(都さん)
軍を引くと星宿様に嘆願する話(さとみさん)
another side2から7(都さん)
だと思います。
視点が違ったり同時進行だったり。
間違ってたらすみません。
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日が昇り始めると同時に井宿は動き出した。
青龍召喚を止めることができず、張宿が重傷を負い必死で治療する軫宿。まだ本調子ではない柳宿。親友を止めることが出来ずに落ち込む美朱を支える鬼宿。倶東がこの後どう出るか、答えの出ない問いが頭の中を駆け巡り眠ることさえままならない。それでも少しでもと、ただ体を休めるためだけの苦痛な時間過ごした。
張宿を頼れない今、足りない知識を補おうと書庫に立ち寄るが膨大な書と現状を照らし合わせて何から手を出していいのかわからず、それでも昔齧っただけの兵法や軍学を読みこんだ。
失礼に当たらない程度に日が昇ると今度は星宿の執務室を訪ねた。
昨晩は出来なかった、北甲国西廊国での出来事を出来る限り細かく報告すると閉眼し、少しの沈黙の後、
「そうか、すまない。ありがとう」
と言った。
「重傷を負った張宿ですが、まだまだ絶対安静の状態ではありますが軫宿のお陰で少しずつ回復に向かっています。ここに来る前に顔を見てきましたが昨日より顔色が少しいいように思いました」
「何よりの朗報だ。私も手が空き次第張宿の顔を見に行こうと思ってはいるのだが」
消えた言葉の続きは井宿が一晩頭の中であったものと同じ。皇帝の星宿が背負っているものは井宿とはまるで違う。体を休めるどころか執務室から一歩も出ていないのだろう。美しい顔に僅かにクマができているのが見える。
「張宿ところに寄った時軫宿にこれを渡されました」
苦笑しながら見せた小瓶はもちろん軫宿が調合したもの。
「星宿様はお疲れでしょうし、休む事もなかなか出来ないでしょうから、栄養と心が落ち着く成分が入っているそうですのだ」
場の空気にそぐわしくない明るい口調。
「オイラも飲まされましたのだ!味は保証出来ませんが効果は軫宿の折り紙つきなのだ」
「そ、そうか。後で有り難く飲ませてもらうとしよう」
息を吐き、机の脇に小瓶を置くと側にいた役人に何事かを耳打ちすると部屋から出て行くのを見て井宿は息を飲んだ。
「さて、ここに来た要件はそれだけではないのだろう?」
瞬間ピリリとした空気に再び包まれる。
「何か掴んだのか」
「いえ、ですが憶測の域ですが倶東がどう出るかオイラなりに考えてみましたのだ」
一晩考えた結果どう考えてもこの結論しか出なかった。憶測でしかない。けれどもしこれが実行されたら。
恐らくは星宿も同じことを考えているだろう。だからこそ人払いをしたのではないか。
「倶東は紅南を欲しようとしている。そう旅の途中幾度となく噂で聞きましたのだ。その通りなら倶東にとって一番邪魔なのは朱雀七星士と現皇帝の星宿様なのだ。その七星士と星宿様が紅南にいる以上間者による暗殺、もしくは戦になる。ただどちらの場合も七星士が邪魔な上朱雀で再興しては意味がない。それを一度に解決できる方法が…」
憶測は憶測。けれど自分が心宿の立場ならこう考える。
「オイラ太一君に聞いたことがあるのだ。神獣はその意思で七星士の力を止めることができる。と。もし青龍に朱雀七星士の能力の封印…字が出ていない状態にされてしまう」
「そのような事が本当に可能なのか…」
「恐らくは。願いで青龍が朱雀にそう働きかけたら、オイラたちは力加護を失い朱雀を呼び出す事ができなくなる。その隙を倶東が見逃すわけがない」
絞り出された声がことの深刻さを物語る。弱り、混乱した国など手に入れるなど容易い。
「私も考えてはいないわけではなかった」
ただその意味を理解する事が感情が拒んだ。
「ありがとう、井宿。言いにくなったであろう。なんとか戦にならずにと思っていたが、もはや避けられぬと思った方がよいか」
「オイラもそう思いますのだ。避けることより守護すること。民の安全を確保と重要機関である都での戦を回避する事を第一に考えた方がよいと思いますのだ」
そういい、いくつかの書物を机の上に置き
「これは張宿が出発前に集めていたものなのだ。オイラは軍学は齧っただけで詳しくありませんがこれを利用し宮殿や市街をなんとか戦の中心地にしない方法が見えてくるような気がしましたのだ。是非軍師殿や得意な方に目を通して頂きたいのだ」
早口に動いていた口を止めると喉の渇きを感じた。
自分に出来るのはここまでだ。後は専門家に任せ、残された僅かな時間を七星士として出来ることを…
その瞬間、ガクリと全身の力が抜けた気がした。何がと思うよりも早く本能が理解した。
朱雀の能力が封印されたのだ。
予想していた井宿は食いしばり無理やりこみ上げる感情を振り切ると足元に落ちた面を無理やり顔につけた。
大丈夫だ、まだいける。面を維持するだけなら大丈夫だ。
星宿が能力の有無に気を取られた隙に張り付ける。
素顔を晒すことか脳力が使えないことを意味する。これ以上みんなを動揺させるわけにはいかない。ただでさえ非常事態なのだ。
「井宿」
押し殺した低い声。けれど諦めの色は見えない。
「私はたとえ戦になろうとも犠牲を少なくしたい。誰も死なせたない。お前から見て有効な策はあるか?」
張宿が持っていた書物の中にいくつか挟んだしおりの箇所を簡単に説明する。
「ただ先ほども言いましたがオイラは兵法は齧った程度にしか理解してませんし、軍のことはさっぱり分かりませんのだ。オイラよりも軍師殿にお見せしたほうがいいですのだ」
「いや、お前と張宿が見つけた策だ。今から軍議を開くお前も参加してくれ」
「…分かりましたのだ」
軍議に参加しても役にたつわけがない。けれど何も出来ないまま後悔だけはしたくない。
「何事だ!」
突然外から騒ぎが聞こえた。
井宿も何事かと耳をすますと、笑みがこぼれた。
「美朱や鬼宿たちなのだ」
警戒に身を固まらせた星宿も脱力し、笑みが浮かんだ。
「鬼宿たちも能力の異変に気づいたのだ。少し様子を見に行きませんのだ?執務室にこもるよりは気が晴れるの思いますのだ」
「そうだな」
井宿は少し悩んだ後口を開いた。
「星宿様。先ほどの太一君の言葉には続きがありますのだ」
朱雀が司るのは愛じゃ。つまりは心。試練を乗り越えようとする強い心には、手を貸してくれるじゃろう。
そう言った師の言葉に新しい決意を固める。
朱雀が封印され能力を使う事ができなくなったと知り軫宿は張宿の元へ走った。
朱雀から与えられた能力は単に特殊能力だけではない。
何があっても朱雀を呼び出すための強い体。
七星士は強い生命力を持っている。それがなくなった今、昨日まで瀕死の重傷だった張宿に耐えられるか分からない。
もしも、もしも!と悪い想像だけが脳裏に浮かぶ。
事情を知らない役人は普段穏やかな軫宿との違いに驚き振り返る。
「張宿!」
また書物を読んでいたのだろう、寝台に座り目を丸くしてこちらを見ている張宿の姿に言いたいことがなくはないが、何よりも安堵した。
「張宿、体の調子はどうだ」
そういい書物を半ば取り上げ検診を始める。
「あ、あの軫宿さん?」
問答無用で始まり戸惑いを隠せない張宿だったが、納得がいったのか小さく口を開いた。
「僕は大丈夫です。僕は鬼宿さんや翼宿さんのように体力を使う能力ではないのでそれほど体調には影響がなかったんだと思います」
「そんなわけがあるか、俺もだるさを感じる。重傷のお前が大丈夫なわけ…」
あるかと言いそうになって昨日よりも随分と顔色がいいことに気づく。
「体が休息を求めていたのもあると思いますが、すごくぐっすりと眠れたんです」
血の気のたりない顔色も昨日とは比べ物にならないほどよい。
何かあったのか?
「夢だったかもしれないんですけど、夜中に井宿さんが来ていたような気がするんです」
「井宿が?」
今朝方張宿の様子を見に来た時井宿がいたことを思い出した。部屋自体が薄暗かったからと思ったがあれはまさか。
井宿が張宿に気を送ったのか。ため息しか出ない。
あいつだって疲れているだろうに。いやこれを予感していたからか。
結果論としてはよかったものの、一歩間違えれば共倒れだ。昨日飲ませれなかった薬湯を今朝無理やり飲ませてよかった。
「脈も体温も顔色も昨日よりずっといい。回復に向かっている。もう少し休め」
それでもみんなが味わった脱力感はあるようで意外とすんなり布団に戻る張宿の頭をそっと撫でると恥ずかしそうに微笑んだ。
そういえば、猫のたまをしばらく見ていない。慌ただしくなる前に探しておかねばならないな。
やっと終わった軍議は清々しいほど何も得るものがなかった。役人たちの悲観と愚痴の場でしかない。
意見が飛び交う場としてはあながち間違いではないのかもしれないが、この切羽詰まった現状にはまったく相応しくない。
最後には「七星士がいながら」「七星士が朱雀を呼び出しさえすれば」と何よりも痛い言葉が井宿への集中砲火に変わった。
一度誰か口に出すと芋づるのように次から次へと井宿を襲った。
止めようとする声もあるが一度火がついたものは止まらない。この場を止めれるのは1人しかいない。
「辞めぬか!」
よく通る声はその一声で静まった。
「私が朱雀七星士と知っての言葉か?七星士とはいえど政とは縁のない者たちだ。中には子供もいる。その子供も重傷おったのだ。その者たちに全てを押し付けるのか?今の立場を得るために死にものぐるいで難関の試験に受かった者たちが言う言葉なのか?官吏ならたった1つの言葉の、力の影響力が分からぬわけないだろう。そなたらは何一つ間違いなく全てのものが満足できる結果をだすことが出来るのか?」
俯き何もいえずにいる役人に星宿は続ける。
「私は軍を引く。自らの手で今度こそ大切なものを守るのだ。少し間休憩しよう。根を詰めては良い案も出るわけがない」
そう言い席を立ち、井宿の横へ行くと役人たちが見守る中
「井宿、すまなかった。そしてありがとう」
狐目を見開いた。
この人は、1人で責任を取ろうとしているのではないか。
「星宿様っ」
「そなたも少し休むといい」
星宿を追おうとするが今は何の言葉も伝わらないだろう。
ギリリと奥歯が音を立てる。
井宿もそのまま部屋を出ると目的地も決めずに早足のまま進むと張宿の部屋の前にいた。
何故ここに?
こんな顔のまま訪ねても心配をかけるだけではないか。
どうすれば星宿様を止めれる。
どうすれば今度こそ守ることができる。
いくつか思いつく策も穴だらけで実行するには足りない。
こんな事なら片っ端から書物を読み漁っておくんだったと後悔しても、それでも実行出来るほどの策が思いつくのはまた別だ。
悩んでいるとガチャリと音がして思わず飛び退いた。
「井宿、どうした?」
「軫宿」
よかった張宿でなくて。
「大丈夫か?顔色がよくないぞ」
「いや、大丈夫なのだ」
「顔…ああそうか、術なのか」
先程部屋でた瞬間ひらりと落ちてきたのが鬱陶しくてつけずに手に持っていた面。
やはり簡単に落ちてしま…
「軫宿!張宿は!」
あることを思いついて軫宿の腕を掴む。
何故術が使える?
それはやり方を知っているからだ。大きな術はともかく小さな術なら可能だ。
「目を覚まして…
言い終わるより早く扉を開ける。
経験したのは七星士だからではない。自分自身なのだ。
張宿ももしかしたら。
僅かに見えた光と、重症の子供を頼らなければいけないかもしれない不甲斐なさ。
それでも足は止まらない。